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福岡高等裁判所 昭和36年(ラ)251号 決定 1961年12月12日

抗告人 堤宗平 外二名

相手方 株式会社西日本相互銀行

主文

本件抗告を棄却する

理由

一、抗告の趣旨及び理由は、別記のとおりである。

二、第一点について。

抵当債権者である相手方銀行は、格別の事情のないかぎり、物上保証人である抗告人らの承認を求めないで、抗告外の債務者株式会社渡辺商店に対し、貸越限度を越えて貸し出すことができるのであり、もちろん抗告人らは約定の担保の極度額を越える部分に対しては、責任を負担することはないから、相手方銀行が抗告人らの承認がないのに、債務者に限度外の貸出をなしたということを理由とする抗告理由は、採用のかぎりでない。

三、第二点について。

(1)  記録によれば以下の各事実が認められる。すなわち、別記目録三筆の不動産は第一回の競売以来最終まで一括競売に付せられたこと。所論のとおり、昭和三六年五月一六日を競売期日とする第二回の競売期日の通知書(記録綴込みの同通知書控及び抗告人ら提出の同通知書)には、右三筆の不動産の最低競売価額が百三十九万二千円と書いてあり、同競売期日公告の控には、最低競売価額として物件目録第一の家屋は、五十三万四千円、第一の宅地は五十万五千円、第三の家屋は三十五万三千円と書いてあること、同競売期日には競買申出人がなかつたので、競売法第三一条民事訴訟法第六七〇条に従い、最低競売価額を相当に低減した額を第三回の新競売期日における最低競売価額とすべきところ、(一)同年六月二七日の第三回の新競売期日における同価額を百七十五万四千円として抗告人らに通知し(抗告人ら提出の同期日通知書参照)ておること。(二)記録綴込みの同期日通知書控(記録百丁)によると、複写紙を用いて初め最低競売価額金壱百七拾五万四千円と書いたのを、ペンで七を弐に書き改め訂正個所に裁判所書記官の印を押し、結局最低競売価額が百二十五万四千円であると表示されておるという右訂正の事実。(三)同期日公告の控(記録九十八丁)には、最低競売価額を第一の家屋四十八万千円、第三の家屋三十一万八千円、と書いてあり、両者ともなんら改ざんの跡は見受けられないが、第二の宅地のそれは、一応金四拾五万五千円と読めるけれども、その中四と読める字は改ざんした跡が明らかであつて、初め九と書いてあつたのではないかとも推認されないこともないので、第二の宅地の最低競売価額を九十五万五千円と見て、これに右第一、第三の価額を加算すれば、百七十五万五千円となるので、原審は同金額を第三回競売期日の最低競売価額と定めたと認めるのが相当であるから、原審には、前示法条に違反して第二回の競売期日よりも、かえつて最低競売価額を増額し、その増額した金額を第三回の競売期日の最低競売価額と定めた違法があると言わなければならない。しかし、この第三回期日において、たまたま増額の最低競売価額(もしくはそれ以上の額)で競買を申出た者があり、同人に競落が許されたとしても、所有者である抗告人らないし債権者は、これによつて利益を受けることはあつても、なんら不利益を被るものではないから、所有者である抗告人らの右の違法を理由とする抗告は利益のないものと解すべきである。ところで本件においては、第三回の競売期日においても許すべき競買申出人がなかつたので、原審は次の第四回の新競売期日を同年八月二二日と指定し、同期日の最低競売価額を第二回競売期日のそれより相当に低減して定め、競売に付しているので、前示の違法はこれによつて治癒され、本件の競落不許の原因とはならないと解するのが相当である。

(2)  つぎに抗告人らは、昭和三六年一〇月一〇日の競売期日(第五回)の最低競売価額百二万円は意外に減額した低廉な額であると主張するが、右の第四回競売期日の本件不動産三筆の最低価額は、百十三万円で、同期日にも許すべき競買申出人がなかつたので、原審は第五回の競売期日を、右の一〇月一〇日と指定し、同期日の最低競売価額を百二万円と定めたことは記録上明らかであり、第四回競売期日の最低競売価額百十三万円を百二万円に低減して、これを第五回競売期日の最低競売価額としたことは相当であつて、これを民事訴訟法第六七〇条の法意に反するとの所論は採用し得ない。

四、第四点について。

競売法第二七条第二項に規定する利害関係人に対する競売期日の通知については、なんら法定の形式はなく、右通知は利害関係人に競売期日に出頭する機会を与えてその権利を保護することを目的とするので、この目的に副うかぎり裁判所は裁量により適当と認める方法で通知することができると解すべきところ、本件競落の基礎となつた昭和三六年一一月七日の第六回競売明日の通知は、抗告人ら提出の同通知書、記録綴込みの同通知書控(記録一一八丁)によれば、競売不動産の所有者を抗告人堤宗平として、抗告人堤マツヱ、同伊藤マスコに通知したことが認められる。そして、記録によれば、別記第一の家屋は堤宗平の所有であるが、第二の宅地は堤マツヱ、第三の家屋は伊藤マスコの各所有であるから、右競売期日通知書は一見堺宗平所有の第一家屋のみを競売に付するかのような印象を与える通知書であつて、妥当でないのはもちろんであるが、右通知書には、その外競売事件の番号、債権者、債務者を表示し、最低競売価額を九十一万八千円と記載してあるので、この最低競売価額の記載を、抗告人らに対し通知された第五回競売期日の通知書に所有者堤宗平外二名、最低競売価額百二万円と記載してある事実と対照し、かつ本件不動産が初めから一括競売に付せられていて、そのことは抗告人らにおいて了知していると推認されることを合わせ考えると、第六回競売期日の通知書に所有者をたんに堤宗平一人のように書いてあるのは、堤宗平外二名の書き誤りであつて、抗告人ら各所有の不動産全部を右期日に競売に付する趣旨の通知であることが当然察知できるので、抗告人堤マツヱ、同伊藤マスコに対し競売法第二七条第二項所定の通知がないとすることはできないので、所論は結局理由がない。

その他原決定に違法はないので、主文のとおり決定する。

(裁判官 川井立夫 秦亘 高石博良)

抗告の趣旨

原決定はこれを取消す。

抗告人等の申立は理由がある。

との裁判を求めます。

抗告の理由

一、抗告人等は共にその所有不動産を株式会社渡辺商店に貸担保として提供しましたが、負担する債務額については当初より限度を定めていました。ところが株式会社渡辺商店は担保責任者である抗告人等に対して、何の承認を求めることなく、限度を越えて債務の負担をなさしめたことは不当であるので抗告人等は被抗告人と債務者株式会社渡辺商店に対して、早急本件競売申立の取下を求めるため債務者より完済するよう交渉中のものでありました。

二、次に抗告人等は本件競売の違法を述べて同時に競売の許すべからざることを主張します。

即ち本件競売は昨年十二月十四日福岡地方裁判所のなした不動産競売手続開始決定に始り、順次に競売期日が指定されましたが、該当期日には何れも最低価額金に達する入札者ないため、期日は延期せられ、又同時に最低価額金も変更されました。抗告人等に対して、福岡地方裁判所より競売期日通知書によつて、示達されました最低競売価額金を見ると本年三月十四日を競売期日とする同年二月二十三日付通知書には最低競売価額金一百五十四万六千円同年五月十六日を競売期日とする同年四月二十七日付にては金一百三十九万二千円同年六月二十七日を競売期日とする同月六日付期日通知書には金一百七十五万四千円となつて競売価額は一躍増額されました。

次に本年十月十日を競売期日とする同年九月二十九日付通知書には金一百二万円とこれは意外な減額にて民事訴訟法第六七〇条に定められた法意の運用は如何なる方法によるものであるか全く不明で、抗告人等の財産権は国法により完全に守られ得ない実情にあります。

三、次に本件競売物件は別紙目録記載のとおり各筆共に所有者を異にして居て、裁判所より送達せらるべき関係書類は常に所有者三名を対象として作成されなければ正当を欠くものであります。そこで本年十一月七日を競売期日とする同年十月十六日付期日通知書によると、所有者の欄は抗告人堤宗平一名が表示されています。そしてその通知書に表示された最低競売価額金は、抗告人堤宗平に対する分にありては同人の所有財産である木造スレート及亜鉛メツキ鋼板葺二階建店舗兼居宅及倉庫一棟建坪二十三坪一合二勺、外二階二十二坪五合の一筆を最低競売価額金九十一万八千円にて競売されることの通知と解され同時に又抗告人堤マツヱ並びに抗告人伊藤マスコに対する期日通知書にも何れも所有者は堤宗平一名と明記されてあつて該期日に競売せらるべき不動産は堤宗平の所有する前記建物一筆のみを分離して、その最低競売価額を九十一万八千円と定めて実施することの通知であります。

然るに原裁判所は抗告人堤マツヱ、伊藤マスコに対して本年十一月七日を競売とする同年十月十六日付競売期日通知書には明らかに所有者堤宗平の所有物を最低競売価額金九十一万八千円にて競売することの通知をなしたにもかかわらず何等の通知をなさずして抗告人堤マツヱと伊藤マスコの所有財産も同時に競売に付したことは失当も甚だしく、抗告人堤宗平の所有財産に対する競売は別として抗告人堤マツヱ、伊藤マスコの財産に対する無通告の競売は許すべからざるものであります。

以上の各理由によつて昭和三六年十一月十四日福岡地方裁判所のなしたる競落許可決定中堤マツヱと伊藤マスコの分は全部無効のものと思料するので取消されたく、ここに本申立致します。

物件目録

福岡市大字平原字松葉九百九十四番地の三

家屋番号平原一二二号

一、木造スレート及亜鉛メツキ鋼板葺二階建店舗兼居宅及倉庫 一棟

建坪 二十三坪一合二勺

外二階 二十二坪五合

右所有者 堤宗平

福岡市大字平原字松葉九百九十四番地の三

二、宅地百十坪

右所有者 堤マツエ

福岡市大字平原字松葉九百九十四番地の三

家屋番号一一九番

三、木造瓦葺平家建居宅 一棟

建坪 十三坪五合

右所有者 伊藤マスコ

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